贅沢、贅沢。

とてもありがたいことに、晴雨堂オープンからひと月ほどたったころから、
患者さんが誰も来ない「来院数0」の日は、ほとんどない。
ところがしかし、昨日の火曜は、誰も飛び込んでこないし、電話も一度も鳴らないという、久々の完全ゼロの一日だった。

定休日の次の一日がそんな風にして全く閑かな様子だったので、すっかりその感じが満ち満ちてしまっていて、なんだか今週は誰も来ないような気がしてしまう。
(いや、いくらなんでもそれはないだろうと思うのだけれど。)

昨日はなんだか寂しいような、ひっそりと隠れているような気持だったのだけれど、
今日はその閑かな感じにもすっかり慣れてしまい、「今日はのんびり読書の一日にしよう♪」と勝手に決定。予約していたCDを受け取りに寄った図書館で、好きな作家のエッセーと雑誌を何冊かうきうきと借り、晴雨堂に戻った。
で、借りてきたCDを代わる代わる聴き、雑誌やエッセイをパラパラめくりながら、家から持ってきた卵とハムとチーズとルッコラのサンドイッチ(ルッコラが最高)をかじっていた。

こういうふとしたときに、頭に浮かんでくる言葉がある。
この言葉に出会ったのはたぶん、10年くらい前。横浜のランドマークプラザでだった。
たしか、仲のいい友人と楽しく晩ごはんを食べた帰り道だ。
桜木町に向かう動く歩道の上から、周りに広がるすごくきれいな横浜の夜景やビルの光、隣接する遊園地のアトラクションや観覧車のかわいい色を、ほろ酔いで上機嫌で見渡していたときだった。
ふと進行方向を振り返ると、歩道の上に吊るされた小さな白い垂れ幕に、ただ黒字で大きく、こう書かれていた。

「これ以上、何を望む?」

来るときには見えない位置に吊るされて、帰りにしか見えないようになっていた、ちょっとしたキャッチコピーのようなものだった。
数秒後には友人と「これ以上何を望むぅーっ?」とますます上機嫌でバカみたいに盛り上がるのだけれど、その前には、私も友人も息を呑み、瞬間すべてが真っ白になってただその言葉だけが胸にこだました一瞬が、確かにあった。


それからもうずいぶん経つけれど、今もふとしたときに、すこーんとこの言葉が脳を凌駕する瞬間がある。

「これ以上、何を望む?」

のんびりとルッコラのサンドイッチを食べていたら、久しぶりにまたそんなことを思い出した。
自分の至福の安上がりさには感心することが多いのですが、悪くない。笑

そんな風にまったりしていたら、電話が鳴った。
夕方の予約だった。今日はゼロにはならないらしい。